学習塾教室長がメール返信を全自動化した話
学習塾教室長がメール返信を全自動化した話
保護者メール、毎日どれだけ時間を使っているか
正直に言う。
保護者からのメールが怖かった。
夜の22時に「授業の進め方について相談したいのですが」というメールが来る。翌朝7時に「先日の模試の結果について教えてください」が来る。昼休みに「体験授業の日程を変更できますか」が来る。
内容はどれも似たようなものだ。でも毎回ゼロから文章を考えて書いていた。
1通10〜15分。1日3〜5通来ると考えると、毎日30〜75分がメール返信に消えていた。 月換算で15〜37時間。年間で換算すると、180〜450時間にもなる。
仕事の時間の中で、これだけの時間が「似たような文章を書く作業」に使われていた。
この記事では、それをClaude Codeで全自動化した方法を全部書く。今では私がメール返信に使う時間は1通あたり2〜3分になった。文案の確認と送信ボタンを押すだけだ。
最初はChatGPTで試した。でも続かなかった
「AIで返信文を作ればいい」という発想自体は、1年以上前からあった。
最初に試したのはChatGPT。「保護者からこういうメールが来た。返信文を作って」とコピペして送ると、確かにそれっぽい文章を作ってくれる。
でも続かなかった。
理由は3つある。
1つ目:毎回コンテキストを説明しなきゃいけない
ChatGPTは会話が終わると前の内容を覚えていない。「うちの塾はこういう方針で」「この生徒はこういう状況で」という説明を毎回1から書かないといけない。それだけで5〜10分かかる。返信文を書く時間と変わらない。
2つ目:生成された文章が「塾っぽくない」
ChatGPTが作る文章は丁寧すぎる。「ご連絡いただきましてありがとうございます。さて、ご質問の件についてですが…」という書き出しが毎回同じで、コピーみたいな印象になる。私の塾のトーンじゃない。直す手間がかかる。
3つ目:結局「自分で書いた方が早い」になる
修正に時間がかかるなら自分で書いた方が早い。そう気づいた時点でChatGPTを使うのをやめた。
「AIで自動化」という発想は正しかった。でも使うツールが違った。
Claude Codeを使い始めて何が変わったか
Claude Codeは、ChatGPTとは根本的に違う動き方をする。
一言で言うと、ChatGPTは「文章を生成するAI」で、Claude Codeは「作業をするAI」だ。
ChatGPTに「返信文を作って」と頼むと、文章を画面に出力して終わり。それを自分でコピーして、メールソフトを開いて、貼り付けて、送信する。
Claude Codeに「返信文を作って」と頼むと、必要なら過去のメール履歴を確認して、塾のルールや方針ファイルを読んで、私のトーンに合わせた文章を生成して、確認を求めてくる。私がOKを押せば、そのまま送信まで完了させることもできる。
「秘書が文章を書いてくれる」と「秘書が作業も全部やってくれる」の違い。自動化においてこの差は決定的に大きい。
難しくないが、最初は確かに詰まった
正直に言う。
初期設定は1〜2時間かかった。「黒い画面(ターミナル)」を初めて触ったし、「コマンド」という概念もよくわからなかった。
でも詰まるたびにAIに聞いた。「このエラーが出たんだけどどうすればいい?」とエラー文をそのままコピペして聞く。そうすると解決方法を教えてくれる。
詰まること自体は問題じゃない。詰まったときに解決できれば十分だ。
初期設定を終えたあとは、毎日の使い勝手はシンプルだ。ターミナルを開いて /mail と打つ。それだけ。
専門用語を4つだけ解説する
読み進める前に、出てくる言葉を整理しておく。これを知っておくと、途中で詰まったときにAIへの質問がしやすくなる。
① ターミナル(黒い画面)
パソコンに「命令」を文字で打ち込む場所。
普段私たちはマウスでアイコンをクリックしてパソコンを操作している。ターミナルはそれを「文字の命令」でやる場所。見た目は怖いが、やっていることは同じ。
Macなら最初から入っている(「ターミナル」というアプリ)。一度開いてみると、ただの文字入力画面だとわかる。
なぜターミナルが必要か。Claude Codeはターミナルで動くツールだから。一度起動の仕方を覚えれば、以降は習慣になる。
② Claude Code
AIに指示を出すと、パソコン上で実際に作業してくれるツール。
「この内容でメール返信文を作って」と言うと、過去のやり取りや塾の方針を参照しながら文章を生成してくれる。さらに「確認したらそのまま送信して」と設定しておけば、送信まで完了させられる。
月$20(約3,000円)のサブスク。毎月15〜37時間の節約を考えると、費用対効果は圧倒的にいい。
③ スラッシュコマンド(/mail など)
よく使う指示を「ショートカット」として登録したもの。
/mail と打つだけで「メール返信文を作る一連の作業」が走る仕組み。毎回同じ長い指示を打ち込む必要がなくなる。一度作ると、以降はコマンド一発で動く。
④ プロンプト(AIへの指示文)
AIに送る「お願い文」のこと。
「この状況で保護者に返信するとしたら、こんなトーンで書いてほしい」という指示をあらかじめファイルに書いておく。Claude Codeはそのファイルを毎回読んで、私の代わりに文章を作る。
一度書けば何度でも使い回せる。
必要なもの一覧
| 必要なもの | 費用 | 備考 |
|---|---|---|
| Claude Code(Anthropicのサービス) | 月$20(約3,000円) | claude.ai で登録 |
| Googleアカウント | 無料 | Gmailを使う場合に必要 |
| Mac または Windows PC | 持っているもので可 | スマホだけでは不可 |
| メモ帳アプリ(任意) | 無料 | 塾の方針・よくある質問をメモしておく場所 |
月$20が唯一のランニングコスト。それ以外は追加費用なし。
【最重要】事前準備:ここをサボると後で詰まる
手順の前に、必ずやっておいてほしいことがある。
「塾の基本情報」と「よくある質問への回答方針」をテキストファイルにまとめておくこと。
ここをサボると、AIが生成する文章が「どこの塾にも当てはまる汎用文」になる。自分の塾らしさが出ない。修正に手間がかかって「使えない」と感じてしまう。
準備するのは2種類のファイルだ。
ファイル1:塾の基本情報ファイル
以下の内容をメモ帳などに書いて保存する(ファイル名例:juku_info.txt)。
【塾名】(ここには一般的な名称で書く。例:「私の塾」)
【対象学年】
(例:中学生・高校生対象の個別指導塾)
【指導形態】
(例:1対1の完全個別指導)
【授業曜日・時間帯】
(例:月〜土、14時〜22時)
【メールのトーン】
(例:丁寧だが堅すぎない。保護者との距離を縮めることを意識する。)
【禁止事項】
(例:値引き交渉には応じない。体験授業の日程変更は1回まで。)
悪い例(これだと汎用文しか生成できない):
「うちは個別指導の塾です。」
良い例(これがあるとAIが文脈を理解できる):
「中学生・高校生対象の1対1完全個別指導。月〜土14時〜22時。保護者とのメールは親しみやすいトーンで、でも礼儀は守る。値引き交渉には応じない方針。体験授業の変更は1回まで。」
情報が多いほどAIの精度が上がる。10〜15分かけてでも丁寧に書く価値がある。
ファイル2:よくある質問と回答方針ファイル
保護者からよく来る質問と、それに対する回答の方向性をまとめる(ファイル名例:faq_policy.txt)。
【授業進度について質問が来た場合】
→ 現在の状況を説明しつつ、保護者の不安を和らげる。具体的な次の目標を示す。
【体験授業の日程変更依頼が来た場合】
→ 1回まで対応可能。2回目以降は丁重にお断りする。
【料金・費用について質問が来た場合】
→ 詳細は面談で説明する旨を伝える。メールで料金の詳細は書かない。
【子どもの成績・学力について不安を示してきた場合】
→ 共感を示してから、具体的な対策を提案する。「様子を見てください」で終わらせない。
【退塾・転塾を検討している様子の場合】
→ 一度面談の機会を設けることを提案する。即答しない。
これを作っておくと、AIは「このメールはどのパターンか」を自動で判断して、方針に沿った返信文を生成してくれる。
Step by Step:設定手順
準備ができたら、実際に設定に入る。
まず1件だけ試す。うまくいったら全件対応に進む。
Step 0:ターミナルを開く
Macの場合:
Cmd(⌘)+ スペース を押して「ターミナル」と入力 → Enterで開く。
Windowsの場合:
Windowsキー を押して「cmd」と入力 → Enterで開く。
Step 1:Claude Codeをインストールする
ターミナルに以下を打つ:
npm install -g @anthropic-ai/claude-code
「command not found」と出た場合は、先にNode.jsのインストールが必要。https://nodejs.org にアクセスして「LTS」版をダウンロードしてインストールする。
インストール後、これを打ってEnter:
claude
ブラウザが開いてログイン画面が出る。claude.aiでアカウントを作ってProプラン(月$20)に加入する。
Step 2:事前準備ファイルをClaude Codeに読み込ませる
起動したClaude Codeのチャット画面に以下をコピペして送る:
以下の2つのファイルを読み込んで、私の塾のメール返信アシスタントとして動いてほしい。
・塾の基本情報ファイル:【ここにjuku_info.txtの中身を貼り付ける】
・よくある質問方針ファイル:【ここにfaq_policy.txtの中身を貼り付ける】
これを覚えた上で、私が保護者からのメール文を貼り付けたら、返信文案を作ってほしい。
トーンは塾の基本情報ファイルに書いた通りに。
Claude Codeが「わかりました」と応答したら準備完了。
Step 3:メール返信コマンドを作る
次に、毎回使うコマンドを作る。Claude Codeに以下を送る:
/mail というコマンドを作ってほしい。
動作:
1. 私が保護者からのメール文を貼り付けると
2. juku_info.txtとfaq_policy.txtを参照して
3. 返信文案を生成する
4. 私が「OK」と言ったらそのまま返信する(Gmailを使う場合)
または文案をクリップボードにコピーする(手動送信する場合)
まずGmailとの連携設定が必要かどうか確認して、必要なら一緒に設定してほしい。
Claude Codeが「まずこれをやって」「次にこれ」と順番に案内してくれる。指示に従って進めるだけでいい。
Step 4:1件だけ試す
コマンドが完成したら、まず1件だけ試す。
/mail
(ここに実際に来た保護者からのメールをコピペする)
返信文案が生成される。内容を確認して:
- 「OK」 → そのまま送信(またはコピーして手動送信)
- 「もう少し丁寧に」「もっとシンプルに」 → 指示を加えて再生成
1件うまくいったら、翌日からの実運用に入る。
Step 5:毎日使う
設定完了後の日常はこうなる。
- ターミナルを開く
claudeと打ってEnter- 保護者からのメールをコピー
/mailと打ってEnter → メール文を貼り付ける- 返信文案を確認 → OK → 送信完了
1通あたり2〜3分。 以前の10〜15分から、約80%削減。
私が実際に詰まった3つのポイント
詰まりポイント①:生成される文章が毎回同じ書き出しになる
症状:
どのメールに返信しても「この度はご連絡いただきありがとうございます。」から始まる文章しか生成されなかった。
原因の調査:
塾の基本情報ファイルに「トーン」の指定が曖昧だったことが原因だった。「丁寧に」とだけ書いていたので、AIが「丁寧 = 定型文」と解釈していた。
解決策:
faq_policy.txtに以下を追加した。
【文体について】
毎回同じ書き出しにしない。
メールの内容に合わせて書き出しを変える。
「この度は〜」という定型文は使わない。
保護者の言葉を受けて返す形で書く。
教訓: AIへの指示は「してほしいこと」だけでなく「してほしくないこと」も明示する。
詰まりポイント②:GmailとClaude Codeの連携でエラーが出た
症状:
Google APIの設定を進めていたら「authentication error」というエラーが出て先に進めなくなった。
原因の調査:
Google Cloud ConsoleでOAuth認証の設定をする際に、テストユーザーに自分のGmailアドレスを追加していなかった。
解決策:
Google Cloud Console → OAuth同意画面 → テストユーザーに自分のメールアドレスを追加。
教訓: エラー文はそのままAIにコピペする。「authentication error」と打っただけで解決策を教えてくれた。自分で原因を探す必要はない。
詰まりポイント③:方針ファイルの内容を反映してくれなかった
症状:
「料金についての質問にはメールで詳細を書かない」と方針ファイルに書いたのに、生成された文章に料金の詳細が含まれていた。
原因の調査:
コマンドの設定時に方針ファイルのパスが間違っていて、ファイルを読み込めていなかった。
解決策:
Claude Codeに「faq_policy.txtを正しく読み込めているか確認して」と言ったら、ファイルパスのミスを発見して修正してくれた。
教訓: 「うまく動いていない」と感じたら、まずAIに「何が問題か確認して」と頼む。自分でデバッグしなくていい。
プロンプトの育て方:使えば使うほど精度が上がる
最初から完璧なプロンプトはできない。使いながら育てていく。
1ヶ月目:とにかく使い倒す
毎日実際に使いながら、「この返信文は惜しかった」「この部分は直したい」というポイントをメモしておく。
修正が必要な文章が出たら、「こういう場合はこういう書き方にしてほしい」とAIに伝えて、faq_policy.txtを更新してもらう。
1ヶ月で、よくある質問パターンの8割はカバーできるようになる。
2ヶ月目:パターンを増やす
最初は想定していなかったメールのパターンが必ず出てくる。
「こういうメールが来た。これに対する返信方針を考えて、faq_policy.txtに追加して」とAIに頼む。方針の検討と更新も、AIに任せればいい。
3ヶ月目:チューニングは終わり、使うだけになる
3ヶ月使い続けると、ほぼすべてのパターンに対応できるようになる。
生成された文章をそのまま送れる割合が増えて、確認・送信の時間がさらに短くなる。「生成された文章を確認する」から「生成された文章に軽く目を通す」に変わる。
応用編:同じ仕組みで何ができるか
メール返信の自動化と同じ考え方で、以下も自動化できる。
① 体験授業後のサンクスメール自動生成
体験授業が終わったら、生徒の学年・科目・当日の様子をメモしてAIに渡す。保護者向けのサンクスメール文案を自動生成する。
「今日の体験に来た生徒の情報:中2・英語・少し緊張していたが授業には集中できていた。→ これに合わせたサンクスメールを作って」
毎回ゼロから書いていたサンクスメールが、1分で完成する。
② 月次の保護者向け報告メール
各生徒の授業記録や成績をまとめて渡すと、保護者向けの月次報告文を生成してくれる。
10人分を個別に書いていたものが、一括で完成する。
③ 問い合わせメールへの即レス
ウェブサイトの問い合わせフォームから来たメールに対応する場合も同じ仕組みが使える。
「問い合わせが来た。内容はこれ。返信して」と言うだけ。
④ スタッフへの連絡文作成
保護者向けだけでなく、スタッフへの連絡文も作れる。シフト変更の連絡、会議の案内、業務上の指示——毎回同じような内容を書いている文章は全部自動化できる。
⑤ メール返信の「トーン統一」
複数のスタッフがいる場合、メールのトーンがバラバラになりがちだ。塾の基本情報ファイルと方針ファイルを共有することで、誰がAIに頼んでも同じトーンの返信文が生成される。
よくある詰まりポイントQ&A
Q:Claude Codeの月$20は高くないか?
A:毎月15〜37時間の節約を時給換算すると、$20は余裕で元が取れる。「時給1,000円」で換算しても15,000〜37,000円分の時間が生まれる。コストとリターンのバランスは明確にプラスだ。
Q:保護者の個人情報をAIに送っていいのか?
A:Claude Codeはローカル(自分のパソコン)で動く。クラウドのAIサービスと違って、会話内容がAIの学習データに使われない設定にできる。Anthropicのプライバシーポリシーを確認の上、自己判断で使用してほしい。不安な場合は氏名や連絡先を伏せた上でメール文を渡す方法もある。
Q:AIが間違った情報を返信文に入れてしまったら?
A:必ず人間が確認してから送信する運用にすること。完全自動送信(確認なし)は最初はやらない。確認の手間を惜しまない。
Q:英語で返答が来たらどうするのか?
A:最初に「返信文は必ず日本語で作って」と指示に含めておく。それ以降は日本語で生成される。
Q:メールソフトがGmailじゃない場合は使えないか?
A:Gmail連携なしでも使える。生成された文章をコピーして手動でメールソフトに貼る運用でも十分に時短になる。
Q:保護者によって敬語のレベルを変えたい場合はどうするか?
A:faq_policy.txtに「長く在籍している保護者にはよりカジュアルなトーンで」「新規の保護者には丁寧に」という指示を追加する。AIがメールの文脈から判断して調整してくれる。
Q:Windowsでも使えるか?
A:使える。Node.jsのインストールとClaude Codeのインストール手順はMacとほぼ同じ。Windowsの場合はコマンドプロンプトまたはPowerShellを使う。
Q:失敗した場合のリスクはあるか?
A:誤った内容の返信文が生成された場合でも、送信前に人間が確認する運用にしておけばリスクは限定される。初期設定のミスで誤送信が起きる可能性はゼロではないので、最初の1〜2週間は必ず送信前に全文確認すること。
初期設定の時間目安
| ステップ | 所要時間 |
|---|---|
| 塾の基本情報ファイル作成 | 15〜20分 |
| よくある質問方針ファイル作成 | 20〜30分 |
| Claude Codeインストール・ログイン | 5〜10分 |
| コマンド設定(Gmail連携あり) | 20〜40分 |
| Gmail連携なしの場合 | 10〜20分 |
| テスト送信・確認 | 10〜15分 |
| 合計 | 約1.5〜2時間 |
一度設定すれば、以降は毎日2〜3分。
まとめ
メール返信に費やしていた時間を振り返ってほしい。
1通10〜15分。1日3〜5通。月換算15〜37時間。年間換算180〜450時間。
その時間のほとんどは、「考える仕事」ではなく「文章を組み立てる作業」に使われていた。
Claude Codeを使えば、その作業はAIに任せられる。人間がやるのは「確認して送信ボタンを押す」だけでいい。
ITが苦手でも関係ない。必要なのは「何をしたいか」を言葉にできることだけ。それだけでAIが動いてくれる。
初期設定の1.5〜2時間で、年間100〜200時間を取り戻せる。
始めるなら、今週末がいい。
この記事を読んで実際に試してみた方は、コメント欄で教えてください。詰まったポイント、うまくいった報告——どちらも次の記事のネタになります。
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